「医」という文字
皆さんは、医師や医学、医療という言葉に使われている
「医」という文字に違和感を持ったことは無いですか?
「そんなこと知っていても得することあるの?」
「文字の意味を知ったところで体は良くならないでしょ?」
とお思いになる方もいらっしゃるでしょう。
確かに
「医」という文字の意味を知っていることで
空腹は満たされないでしょうし、傷の治りが早くなることも無い(はず)です。
ですが
「医」という言葉の意味を知ることで
「鍼灸」「東洋医学」というものの一端を知って頂くことはできます。
そして、どこかの場面で話のネタになるかもしれません(笑)
「医」の旧字体「醫」
まずは「医」という文字の意味を見てみましょう。
「医」意味:
①いやす。病気を治す。「医方」「医療」
②くすし。病気を治す人。医者。「名医」「軍医」「侍医」
漢字ペディアから引用
「いやす。」「病気を治す。」という言葉はイメージしやすいと思いますが
②にある、「くすし」という言葉はいかがでしょうか?
漢字にしてみると、よりイメージしやすいと思います。
「薬師(くすし)」
薬師という言葉を初めて知った方は
「えっ、薬剤師?」とお思いになった方もいらっしゃるかと思います。
薬師(くすし)って何?
「薬師」意味:
医師の古語。語源には2説ある。
『倭名類聚抄』に「医,和名は久須之,くすし,病を治す工 (たくみ) なり」とあり,新井白石と本居宣長は「クスシは奇すしで,古語はクシで後にクスシと変ったもの,もともとは医術の奇効からきている」と説いている。
また平田篤胤は「クスシはクスリシのリが脱けたもの。医にクスリはつきものでござる」といっている。
コトバンクから引用
なんだか良く分かったような、分からない様な感じですね。
以前書いた記事を読んでいただくと、
この後の流れが分かりやすいかと思いますが
江戸時代、今の現代医学のベースとなる「蘭学」が入ってくる前
今の医師の役割をする人が行う術は「漢方医学」でした。
ですから
当時の医師的役割の者は、今でいう東洋医学をベースとし、
湯液や薬草などの薬を扱う「薬の専門家」でした。
また、「くすし」には「奇し(くすし)」という言葉もあり。
字の通り、奇怪で不思議な、神秘的、霊妙といった意味があります。
当時の人々は、東洋医学を駆使し人々の病を治す様が
神秘的に思えたのかもしれませんね。
少し脱線しますが
お寺さんや仏像がお好きな方はご存知かと思いますが
「薬師」という字を使った
人々の病を癒し、苦悩から救うとされる仏様である
「薬師(やくし)如来仏」の名にも影響していることが分かります。
さて、「医」という文字の意味をみていくだけで、だいぶ時間がかかってしまいましたね(汗)
次に「医」の旧字体を見てみたいと思います。
旧字体「醫」
この「醫」という 文字の起源を見ていくと
「匸(かくしがまえ)」+「矢」で、矢をかくす容器で、病気などをいやすという意味はない。
これに、動作を表す「殳」を加え、「殹(エイ)」とし、矢をかくす動作(医療のまじないか)を表す文字となり、さらに、「酉(酒壺)」を加えて薬酒を醸す業となった。
酉に代えて、「巫」を用いる異体字「毉」もあり、これは巫術による医療を表したものであろう。
ウィクショナリー日本語版から引用
という記載があります。
東洋医学の発端となる、中国の原始的な医術をたどって見てみると
最初は
「傷口を嘗める。」
「痛いところを撫でさする(手当てする)。」
→「導引按蹻に発展」
「体に良さそうな食物を摂取する。」
→「湯液療法に発展」
といった本能的な行動に加え
砭石(へんせき)という
「石の鍼を用いて痛むところに治療」を行っていました。
その後、部族社会の形成により
「シャーマン(宗教的職能者)」などの呪術師が生まれ、
呪術的な医療が行われました。
意味の中に、
巫女さんの字に使われる「巫(ふ)」の字を用いた
「毉」があるのはそういった歴史があるからのようです。
医術が「呪い(まじない)」から「お酒(アルコール)」を使うようになり
現代の日本では、弓矢の矢だけ残り
簡略化した「医」を用いるようになる。
現代の日本では西洋医学が医療の中心となっていますが
その「医」という字の意味をたどって見ると
その文字の中に、東洋医学の変遷を垣間見ることができます。
砭石という石鍼から始まる、鍼師である私としては大変感慨深いです。
旧ブログで書いた「東洋医学」関連の記事はこちら
秩父山育ち。スイーツ大好き鍼灸師がやっているブログ。-東洋医学-